遺書手紙日記

覚書、或いはTLを汚さないための長文

読書感想文:『この世の中を動かす暗黙のルール』

読書感想文:『この世の中を動かす暗黙のルール 人付き合いが苦手な人のための物語』

著:岡田尊司

 

長いので続きを読むにしておくね。

 

 

さて、読書感想文はいいものの何から書こうかな。

あらすじからかな。

その前に著者と発表年について軽く触れておこうかな。

 

とりあえず知っておくべきなのは、この本の著者である岡田尊司氏が本職の精神科医で、発達障害やパーソナリティ障害の臨床医として活躍している人物であるということだ。別名義で小説も発表しているが、精神科医としての名義で著した本であるということは、その見地から書かれるべき内容であるからだということにほかならない。

この本の出版年は2010年7月10日。この岡田さんの執筆速度や脱稿から本になるまでどのくらいかかるのかとかはよく知らないけど、時期的にはリーマンショックから世界的金融危機が引き起こされたのが2008年。その余波によって訪れた不況やら就職氷河期の真っ只中にあるのが、この2010年だと思う。

恐らくこれらの事態を受けて執筆したわけではないだろうが、時期的にはそういう時代に出版された、ということだ。作中の主人公は自分から会社をやめたようだが、こいつひでえ時期にやめやがったんだな。

ついでに言えば、2010年はぼくが新卒だった年でもある。そういうわけで主人公にはシンパシーを覚えなくもないが、まぁ後述するようにスペックが違いすぎるし、ぼく自身のことは実にどうでもいい話だ。

 

では改めてあらすじ。

雑なあらすじで言えば、この本の物語はこんな感じだ。

 自殺未遂した若者が進研ゼミよろしく他者からのアドバイスで幸せになる話

 うん、雑だね。

もう少し長く詳しく書こう。

 職が見つからず自殺を企図するも未遂に終わった若者は、強制入院させられた精神科の病院の病棟で❝先生❞と呼ばれる人物と出会う。

若者は その先生から「この世を動かす暗黙のルール」なるものを教わり、悩みながらも最後には幸せをつかむ。

まぁこんなところじゃないかな。いやあらすじとしてはやっぱ不正確だな。もうちょっと長めに書く?

やっぱやめよう。あらすじよりルールを書き出すほうが大事だ。

全体的には最初に書いたとおり、なんかこう進研ゼミの漫画的なサクセスストーリーだなと思ったが、まぁ挫折を描く本というよりは、挫折したときにどういう考え方で立ち上がるかという本なので、別に鬱展開とか手に汗握る展開とかはいらないよね。

でもどん底まで落ちたって言っても、この若者、「優秀じゃない自分を見捨てた」親との確執がありながら、「大学では成績優秀」で「世間でも誰もが知ってる上場企業」に入社してるんだよなぁ。地頭は普通にいい人間が、上司と反りが合わなくて衝動的に自殺未遂やったってだけの話。根本的に人間がデキてないようなのとはスタートラインがまるで違うことに留意すべきだね。

 

この本には先生から教わる形で『この世を動かす暗黙のルール』が出てくる。どれも確かに頷けるもので、専門知識を持って考えられたものであるということが伺えるフレーズとなっている。

先生から教わる際には、まず○○という基本ルールがあり、そこからさらに2,3のルールが導き出される、という形でその内容が紹介される。この本のキモなので、これを抜書きしておこうと思う。

ちなみにルールそのもの以外でも結構大事なフレーズがある。

序盤に先生が言うこのくだりなんかがそうだ。

「よいところを見る者はよくなり、悪いところを見る者は悪くなる。よくなりたかったら、よいところを見つける名人になることじゃ」

つまりプラス思考を持てってことなんだけどね。この「良いところを見つける名人」っていうワードも作中あちこちで出て来るから、ルールに加えていいような気もする。

 

更に、これらのルールには、大鉄則、第零のルールとも言うべきものが存在する。

それは「実践して初めて、本当に身を助ける知恵となる」ということだ。

つまり読者に対して「読んだらやれ、意識しろ」と言っているわけなのだな。

 

 

第一のルールが出てくるのは、病院内で人間関係に悩んだ時。

「人は関心を共有する者を仲間だと認める」

そこから導き出されるのは「関心を共有しない者は仲間から排除される」

逆に言えば「仲間と認められたければ関心を共有しなくてはならない」

これを駆使することで、若者は同じ入院患者のみならず職員たちとの関係も円滑なものへと変化させた。

これを第一に持ってきたのは、結局のところ人間は社会生活をする生き物である、他者との関わりなくしては生きていけない存在である、ということだろうか。或いは、人間関係のこそ最も初歩的で重要な悩みである、という考え方かもしれない。アスペルガー症候群なんかは特にここができない障害だと言われているから、ここから既にハードル高いよね。

 

二つ目のルールは病院を出るときに伝えられる。

「見捨てられたものほど認められたがっている」

逆に言えば「見捨てられたものが認められたとき、そこには大きな力が生まれる」

こうも言えるだろう、「人が見向きもしないものにこそ大きな価値が埋まっている」

これを授かった若者は廃品回収業者の黒丸と出会い、しばし行動を共にする。こうも言えるだろうの変化形から普段回らないようなルートを開拓、更にそこで関わった人たちとも『関心を共有』し、大きな利益を上げることに成功する。

まぁ、これも分かるといえば分かるかな。大きな力が生まれるかどうかは分からないけど、理屈としてはそんな感じかなって思う。まぁでも、人が見向きもしないものってだいたい見向きする価値が無いものだよねとは思うけど、見落としたまま放って置かれてるものもあるにはあるからなぁ。

 

 

第三のルールは若者が廃品回収業を辞めて興味があった植物関係の会社に転職するかどうかで悩んでいるときに授けられる。

第三のルール「自分が求めているものをはっきりさせないと求めているものは手に入らない」

そこから導き出されるのは「自分の求めているものが曖昧だと、皆が混乱する」

更には「自分の求めているものをはっきりさせることが、結局みんなの幸せに繋がる」

良いこと言うねー先生。だから先生なんだけど。

太字じゃないけど、「人生に遠慮など無用なんじゃ」も書いておこう。

これを聞いた若者は決心をして植物関連の会社を受ける。ここの面接のやり取りで胃が痛くなった。つらい。給料以上の働きをしてくれると期待させてくれたから営業職に回すよ、なんて吐き気がするほど辛い言葉だ。やっぱこの若者、運が悪かっただけで地は悪くねえじゃん。

まぁ、やりたいことがアバウトなままだったらどうしようもないよねってことだよね。うん。目標に邁進しようとも、その目標がなきゃ何のプランも立てられないもの。

 

第四のルール。これは営業職に配属されて契約が取れない若者に対して授けられる。

「間違った相手と交渉してはいけない」

逆に言うと「求めている相手が一番高く買ってくれる」

……これもまぁ、うんうんって感じだよね。無理矢理売りつけるの大変だもんね。弟も販売営業からルート営業になって楽になったって言ってたし。相手が聞く姿勢を持ってくれてるからこっちも話がし易いんだとさ。

ちなみにこのあと、若者は開店直前の店舗を探して声をかけるという手法で売上を伸ばしまくっていく。いやーすごいなー。後にその手法がマニュアルになるんだけど、その時まだ誰も思いついてなかったってことだよな…まぁ創作だししょうがないかな…。

というかこれ、営業だけじゃなくて転職にも言えることだよね……はぁ……。

ちなみにその後、ようやく正社員として採用される。それまで見習い期間の契約社員だったってことやな、多分。6ヶ月くらいかな、多分。はぁ……。

 

 

第五のルールは、成績トップの先輩がイビってきたときに授けられる。

「相手の安全を脅かすものは、激しい攻撃を受ける」

「相手の縄張りの中では、相手を最大限尊重しなくてはならない」

若者が急に売り上げ伸ばしてきたから、成績トップの先輩が辛く当たってきたという状況。うん、まぁ分かるね。ここからどうするかが難しいんだと思うよ? と思ったら若者、いともやすやすと、きちんと詫びを入れただけで先輩と仲良くなってしまった。スペック高えー!

 

 

第六のルール。これは若者が意中の女性をデートに誘うかどうかで悩んでいるときに授けられる。営業先の歯科医の受付の女性だ、上手く行かなかったら仕事にも影響が出るかも…と心配する若者に対して、

「相手に近づくときは逃げ道を用意しておかねばならない

「抵抗を感じたときは、強引に進まず、いったん立ち止まれ」

「どんな場合にも、互いが傷つかないように行動せよ」

要するに、スマートに立ち回れよ、ってことだよね。この場合スマートというべきかクレバーというべきか分からないけど。全身傷つきながら進むのは格好いいといえば格好いいけど、それはスマートじゃない。ゴリ押しはスマートじゃない。強引な進行はうまくいかない、長くは続かない。そういうことだ。まぁ、立ち止まり続けるわけにもいかないんだけど…。

あと最後、行動せよで結んでるのがアレだよね。傷つくくらいなら行動するなとは言っていないのもポイント。逃げ道を作っとけ、立ち止まれ、傷つかないように、とは言うけど、行動自体をやめるようには言っていない。飽くまで一時停止、保留だ。前に進みたがっている若者に対して言ったからかもしれないけど。

 

 

第七のルール。外部から招聘された営業部長と意見がかち合ったときの若者に対して。

「自分を肯定されたければ、相手を肯定しなければならない」

「いくら自分が正しくても、相手を怒らせてプライドを傷つけてしまうと、主張は受け入れられない」

ココらへんはクレバーというべきだよね。人間ってめんどくせえー。自分も含めてめんどくせえー。

続けてこうも言ってるんだよね。世の中を動かしているのは人間の自己愛だ、って。近代の法律ではなくて、何百万年と続けてきた感情のやりとりだって。まぁ、理屈で考えたら何の役にも立たないぼくみたいなやつは今すぐ殺されても文句言えないからな…いやでもそれをさせないのは法律か…。

 

余談。この後にある会話の一節で、若者に独立を勧めた先生がこんなことも言っている。

「いつまでも会社や組織を頼りにしていては、いざというときに当てが外れる」

年功序列とか終身雇用とかが崩壊していく社会を牽制して置いた台詞なのだろうなぁというのは想像できる。

ああ、辛いなぁ。

 

 

 

そろそろ長くなってきたけどラストだからがんばれ。

第八のルール。このとき、先生はもう病で亡くなっていて、先生からの置き手紙という形で語られる。

「真っ白な気持ちで向かい合えば、相手の気持ちも真っ白になる」

そっかぁ。せやなぁ。

これを授かった若者は、ようやく真っ白な気持ちで確執のある両親と向き合うことを決めるのだ……という流れ。

最後はやたらハイスペックな彼女を紹介するために故郷へと足を運び、両親に迎えられ、実家が見えてきたところで、若者の旅は一つの幕を下ろす。

 

 

 

ぐあー疲れた。

まぁそんな感じで、人生そううまく行かねーよと思いつつもそこらへん上手くデキてりゃ苦労しねーよと思いつつも結構感じるところがあったなという話でした。

おわり。